『公式ホームページ』森林原人

AV男優が、一般女性とともに探求する“セックスの本質”とは? 〜 第一回『性愛の探求セミナー』レポート(中編) 〜

著:環子(ワコ)

ライター歴15年。「性愛のつながり」を探求したくて、ときどき性にまつわる取材記事を書いています。

今後は「歳を重ねるほど豊かになるセックス」を考えていきたい。

最近興味があるのは、女性用風俗とネコ。Twitter:@wako_log

 


 

上映作品①『さみしさの秘密』 相手と深くつながるセックスに必要なこととは?

〜 第一回『性愛の探求セミナー』レポート(中編) 〜

 

AV男優の森林原人が、自ら撮り下ろしたドキュメンタリー映像をもとに「性とは何か?」を掘り下げていく『性愛の探求セミナー』。

レポート前編では、セミナーの成り立ちと、森林が考える「性の本質に関する仮説」についてお届けした。中編となる今回は、いよいよ1本目の映像作品『さみしさの秘密』をご紹介。上映後に行われた解説と、本セミナーでしか観られない映像の全貌を明らかにしていきたい。

 

 

森林が撮る映像作品の最も大きな特徴は、一般女性のリアルなセックスを映し出していること。まずは今回の出演者である恵子さん(仮名)のについて、簡単に紹介しよう。

恵子さんは、過去に森林が開いたセミナーをはじめ、さまざまな場所で性愛について学んだ後、現在は女性性の開花をサポートする活動を行なっている。彼女は性を学び始めて以来、その探究心から約100人の男性とセックスを試みたそうだが、実は、あまり相手と深くつながった経験がないという。その理由は、心の深層部分にある男性への不信感や自身のプライドの高さ、身体的特性が要因で起こる不安感などが感情のブロックとなり、ありのままの自分を曝け出せないからではないかと自己分析している。

代々木忠監督作品に出合ってからは、ますます「相手と深くつながるセックス」への憧れが高まり、今回の出演でも「自分の殻を破りたい」という思いは強い。そしてさらに、できることなら「“宇宙とつながるオーガズム”を感じてみたい」とも–––。

 

 

森林は上映に先立ち、この「宇宙とつながるオーガズム」について説明を始めた。スピリチュアリズムを想起させるこの言葉は、代々木忠監督が提唱する3段階のオーガズムのうちの“究極のオーガズム”を指すものだ。

3段階のオーガズムとは、

小:男性は射精、女性はクリトリスへの刺激によって得られるオーガズム

中:イクときに相手とつながったような一体感を味わえるオーガズム

大:相手はもちろん、宇宙とつながったような感覚が起こるオーガズム

森林自身は「宇宙とつながるオーガズム」を体験したことはないが、その存在自体はあるだろうと考えているそう。

 

「代々木さんは、人生で深く傷ついた過去を持っている人ほど、素晴らしいセックスを体験すると意識が反転し、大きなオーガズムを得られることがあると説明されています。というのも、たとえば、虐待やいじめ、性暴力に遭うなど心に大きな傷を負った経験のある人は、自己否定や自己嫌悪、自己無用感を抱いているケースが多い。そういった状態では、考え方が凝り固まり、『どうせ私(僕)なんて』と自分の殻に暗く閉じこもってしまう傾向があるのですが、そんなときにセックスで誰かと通じ合えると『この人は私を必要としてくれる!』『私は私でいいんだ!』と大きな喜びが湧き上がります。深い暗闇の中にいた人ほど、喜びをまぶしい光のように感じられるため、結果として、極めて大きなオーガズムに到達できるというのです。

とはいえ、大きなオーガズムを得るためにつらい目に遭おうとするのでは本末転倒ですから、本来、そこはめざすものではないのかもしれません。でも、恵子さんには、これを経験してみたいという希望があった。普通のAV作品なら、とにかく『光が見えた!』と言わせる演出をするところですが、今回はそうはしていません。ただ、実際に撮影をしていくなかで、意図せずある出来事が起きました。恵子さんの本質が浮かび上がってきたような一件でしたが、それは一体どういうことだったのか、みなさんとともに考えていきたいと思います」

 

 

そしていよいよ、待望の上映が始まった。

この日、上映された作品は、『性愛の探求セミナー』のためだけに制作されたものだ。残念ながら、みなさんに視聴いただくことはできないが、代わりに、その内容をできるだけ映像に忠実に文章に起こした。ぜひ、こちらからご一読いただき、再度これ以降のレポートを読んでいただくことで、本セミナーをより深く味わっていただけたらと思う。

 

※『性愛の探求』~さみしさの秘密~文章起こし

 

言葉のセックスで、心の深層にある欲求を浮かび上がらせる

 

上映終了後、会場が明るさを取り戻すと、場内にはフッと緊張の解ける空気感が広がった。上映中は思わず映像に引き込まれ、息を飲むように視聴していた参加者が多かったのだろう。スクリーンでは、思考優位だった恵子さんの強張りが徐々にほぐれていき、身も心も相手に委ねてつながっていくそんな様子が、エモーショナルな映像に収められていた。

森林は「撮影を通じて恵子さんが何を得られたかについては、みなさんが個々で受け取ってください」と前置きし、「恵子さんの希望に応えるために、どのようなアプローチを行っていったか」という観点から講義を進めていった。

今回の撮影は2日間に分けて行われていたが、初日の撮影では裸にはならず「誘導瞑想」という施術法が試されていた。「誘導瞑想」とは、現役時代の代々木監督が撮影に入る前に女優たちに行っていたテクニック。通常は無意識になされている呼吸を意識的にコントロールすることで、無意識の領域にアプローチしていくという。これにより、日頃は自分の外側に向きがちな意識を内側に向かわせ、心の奥にある欲求を浮かび上がらせて解放しやすくする。セックスで相手とつながりやすくするためのウォーミングアップのようなものだ。

 

 

「ゆっくりと深呼吸をしてもらった後、短息呼吸といって1秒で吸って1秒で吐く呼吸を指示していきます。これは400mダッシュをするくらいの息の上がり方だそうですが、20分ほど続けてもらうと呼吸だけで精一杯の状態に。他のことを考える余裕がなくなるので、意識を自分の内側に集められるのです。

その状態からゆっくりの呼吸に促したら、今度は言葉によるセックスをしていきます。思考停止した頭にセックスの情景をイメージさせる言葉を入れていくと、脳は言葉を信号として受け取り、身体にあたかもセックスをしているような感覚を起こさせるのです。こういうことが可能になるのは、脳は、実際の出来事と想像の出来事とを区別できないから。梅干しを実際に食べたときと想像したときとでは、どちらも同じように唾液が出るのと同じ仕組みですね。

僕は、まず言葉のセックスをして、恵子さんがどんなことに反応するか見極めようとしました。すると彼女は、『ずっとあなたとこうしたかった』という言葉を聞いて、涙を流した。おそらく、恵子さんが思っていたであろうことに対して、相手も同じ気持ちでいてくれたことが嬉しかったのでしょう。心の底から、誰かとつながりたがっている心情を感じました」

恵子さんに限らず、セックスの最中に「相手も同じ気持ちでいてくれるだろうか?」という不安感が頭をもたげるのは、よくあることだろう。彼女の場合は、これまで「プライドや男性不信が邪魔をして、相手に身を委ねられなかった」というのだから尚更。でもだからこそ、相手から同じ気持ちを伝えられたことは、彼女に大きな安心感をもたらしたに違いない。

 

 

予想外のアクシデントが、自分を曝け出すきっかけに

 

2度目の撮影は2週間後に行われた。再会した恵子さんは、再び思考優位の状態になっていたため、森林は、あらためて彼女の意識を身体の内側に向けるアプローチを施した。

うまく恵子さんの意識が整ったため、いざセックスをしていこうという段階になったとき、本人も想定外だったであろう、アクシデントが起きたのだ。

 

「挿入の準備をするため膣に触れてみたところ、やや狭い形状だったんです。それ自体はよくあることなので、少しほぐしておこうとしたのですが、そこで僕がまるで医療行為のように淡々と指を入れてしまったことが、彼女のトラウマを刺激することになってしまった。フラッシュバックが起き、“婦人科の診察台”に対する恐怖心や痛みの記憶を引き出してしまったのです」

 

森林が指で膣内をほぐしていると、恵子さんは突然「しんさつだい…」とつぶやきながら泣き出した。軽いパニック症状のようにも見えた予想外の展開に、森林は、ここで撮影を終了するべきかと考えたという。

しかし、撮影続行を望んだのは、恵子さんの方だった。彼女は森林にしっかりと抱きしめられ、なだめられている胸のなかで「でも、挿れたいんだよ…、入ってきて欲しいの」とその胸の内を伝えたのだ。

 

のちに、森林が恵子さんに、なぜあのとき続けたかったのかと尋ねたところ、彼女は「目の前の人と深くつながってみたかった」と答えたそう。また5月14日にゲストとして登壇した際には、「森林さんなら(自分をトラウマごと)受け入れてくれると思えたから」と語っている。

ふたりの関係は撮影のためのほんの2日間であったとはいえ、森林は最初から徹底して恵子さんの心の機微に寄り添い、その最深部にある欲求を引き出そうと辛抱強くアプローチし続けてきた。そんな頼もしさと包容力は、彼女の感情のブロックを溶かし、トラウマを乗り越えて身を委ねてみようと思えるほどの信頼感を築いていったのだろう。

 

ふたりは無事にセックスを再開する。そこから先は、お互いの目を見つめ合い、名前を呼び合いながらますます心を通わせていったのだが、実は、ここにも相手とつながるためのポイントがあったと森林は説明する。

 

 

「セックスで相手とつながっていくとき、とても有効なのが言葉の力です。まず大切なのは、相手の名前を呼ぶこと。名前を呼ぶと、相手の意識をしっかりと自分に向けられると同時に、自分の中でも相手の存在を強く感じられます。また、今回は出てきませんでしたが、感情の言葉を伝えることも大事。気の利いた言葉じゃなくていいんです。むしろ重要なのは、「気持ちいい」や「好き」といった、身体が感じ、頭に浮かんだことをそのまま伝えること。名前や感情の言葉を口に出すことで、“身体と心、心の最深部にある性”がひとつにまとまっていく。意識が外側に逃げずに内側に集結して、その全部で相手に向かっていくからこそ、しっかりと深くつながっていけるのです」

 

相手と深くつながることで、「私なんて」から解放される

 

セックスを終えた恵子さんの目からは、涙がぽろぽろと溢れていた。澄んだ青空を思わせる晴れやかな表情は、セックスをする前よりも、俄然、美しさを増している。女性をこんなにも幸せそうに変化させる、満ち足りたセックスの力を感じずにはいられなかった。

 

「恵子さんは、診察台への恐怖心はもちろん、男性がスムーズに挿入しにくいことも、挿入されて痛くなってしまうことも、すべて『自分が悪い』と思い込んでいました。そこから『どうせ私なんて』という自己否定感や自己無用感が生じていましたが、これはまさに上映前にお話しした“自分の中に暗く閉じこもっている状態”です。

 

 

しかし、その状態はセックスで他者と深くつながることで解消されることがあります。『あなたといると幸せになれる』『私といることで幸せになれる人がいる』と思えると、自分に自信が湧き、自己肯定感が芽生え、幸せを実感できるようになるのです。ただ、このとき『相手の役に立ちたい』と考え始めると自己犠牲心が勝ってしまうことに。そうではなく、あなたにも私にも『つながりたい』という気持ちが湧き起こり、お互いが『あなたとずっとこうしたかった』という思いでつながれたとき、代々木さんが言うところの“中くらいのオーガズム”や“相手との一体感”が得られるんです。

 

ただし、たった1回のセックスでネガティブ思考を解消することは、やはり難しい。今回、恵子さんと僕の場合は1度きりでしたが、本来は、いいセックスができる相手と日々を積み重ねていくことで、少しずつ薄れていくものなのです。

僕たちは、子どもの頃から時間をかけて「性=本質の心」の周りに、社会通念や固定観念といった“性のレッテル”のようなものを積み上げてきました。それは、社会性を維持するためには必要なものかもしれませんが、せめて、信頼できる人と1対1で向き合うときくらいは、“本質の心”のままでいられたらいいですよね」

 

 

恵子さんが、誰にも明かせなかった恐怖心や不全感を曝け出し、“本質の心”で相手と深くつながっていく様子を追ったドキュメンタリー『さみしさの秘密』は、『性愛の探求プロジェクト』第1作目として、ふさわしい内容だったように思う。

いちばんわかってもらいたいことこそ、なかなか伝えることができない。それは、とりわけセックスの場面で、誰もが一度は味わったことのある歯痒さではないだろうか。しかし、だからこそ、それを伝えられたときのカタルシスは大きく、これ以上ないほどの解放感を得ることができる。そして、この解放はひとりでは叶わない。信頼し合えるふたりの距離が極めて近づくからこそ実現できる、セックスという行為のかけがえのない魅力ではないだろうか。

 

後編に続く…