今回の出演者である「みづきさん(仮名)」は、出演者募集の告知に真っ先に応募してきてくれた女性。20代の頃にAV女優をしていた経験があるそうだが、十数年前に引退。現在は、夫と子どもの3人で暮らしている。また、長年のつき合いとなるSMのパートナーがひとり。恋愛関係にあるが、お互いに愛情が薄れつつあるのを感じているとか。
最近、みづきさんの心には、ひとつの疑問が浮かぶようになった。「私は、本当に痛みのあるセックスが好きなのだろうか?」夫とセックスレスになって以降、パートナーとSMプレイを行なってきた彼女は、もう一度、普通のセックスをしたいと思うようになったという。
森林のメルマガが目に留まったのは、そんな折だった。性愛に関する活動をしたいという思いとともに、望むセックスがかなうかもしれないと期待に胸を膨らませた–––。
いちばん痛かったセックスが、いちばん気持ちよかった
本作の撮影は、1泊2日で行われた。旅の始まりは、都内の某ターミナル駅。構内で待つ森林のもとに、旅行バッグを抱えたみづきさんが笑顔で近づいて来る。
襟元に小さなパールが並ぶペールブルーのニットに黒いパンツ。カジュアルななかにも女性らしさを忘れない、好感度の高い装いだ。軽やかなショートボブの髪を揺らしながら、「よろしくお願いします」と頭を下げる。人懐っこさが滲み出るはにかんだ表情が印象的だ。
森林:「もうカメラ回ってるよ(笑)」
みづき:「…はい」
森林:「いまの心境はどう?」
みづき:「緊張で心臓が飛び出そうです…(笑)」
森林はみづきさんを促し、ロケバスを停めた場所へと歩き始める。…と、みづきさんが不意に「あっ…!」と息をのみ、足を止めた。みるみる頬を赤らめて、両手で顔を覆う。目の前に、みづきさんの憧れの人である代々木組男優の佐川銀次が立っていたのだ。
銀次は、「どうした〜(笑)」とにこやかにみづきさんに近づいていく。驚きと喜びとで泣き出した彼女は、恥ずかしさのあまりカメラに背を向けてしまう。森林が「あれ、泣いてるの?」と聞くと「花粉症です(笑)」と泣き笑いの表情で答えてみせた。
ロケバスに乗り込むと、まずは肩慣らしに、森林がふたりの出会いについて尋ねる。
森林:「みづきちゃん、銀次さんのこと覚えてた?」
みづき:「覚えてたっていうか…、もちろんです。まだ若干パニックなくらい」
森林:「みづきちゃんが、この人がいちばんいいっていうからさ。銀次さんのことが、いちばんよかったんでしょ?」
みづきさんと銀次は、現役時代に1度だけ共演したことがある。彼女は、そのキャリアを通じて体験したすべてのセックスのなかで、銀次との行為がもっともよい思い出となっているというのだ。
銀次:「だけど、あの撮影はひどい企画だったんだよね。ビンタのやつでしょ?」
みづき:「はい(笑)」
銀次:「あのときは、相当激しくやってくれってことだった。当然、女優さんもそれをしたい人しか呼ばないんだけど、結局、希望者があまり現れなくてシリーズ化できなかったんだよ。撮影後は顔が腫れてたもんね…」
みづき:「顔もすごかったけど、お尻も大変でした。翌日は椅子に座れなかったくらい」
銀次:「普通のSMモノより余程ひどかったからね。でも、それで痛みの快感に目覚めたの?」
みづき:「そうですね。そのときに、痛みの気持ちよさを知ったんです」
銀次:「いまでも、痛みが欲しい感じなの?」
みづきさんは、躊躇いながらも「そう…ですね(笑)」とにこやかに返した。
彼女にとって、“痛みのあるセックス”とは、一体どのような意味を持っていたのだろう?
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一行は、都内からだいぶ離れた見晴らしのいい駐車場に降り立った。森林は、あらためてみづきさんにインタビューを行う。
森林:「いまはどんな性生活をしているの?」
みづき:「夫婦は何もありません。普通のセックスは、もう何年もしていないですね。S Mのパートナーがいるので、ビンタ
されたり殴られたり…」
森林:「それでも、まだ何か足りない感じがある?」
みづき:「ある程度、突き詰めたからこそ…、すごく普通のセックスがしたくなりました」
森林:「(SMの)ご主人様は普通のセックスはしてくれない?」
みづき「どうしても、お互いハードな方に向かっていっちゃうから…」
森林:「ご主人様とは愛し合っていないの?」
みづき:「愛し合って…いましたよ。でも、最近はお互いを愛しむセックスをしなくなったなあって。だから、そういうのを味わいたくなって。スローセックスのような交わりをしてみたいと思うようになりました」
森林:「みづきちゃんにとって、銀次さんはどんな人?」
みづき:「うーん、私の人生を変えた人かな…」
森林:「1回のセックスで? 他の人と何が違ったの?」
みづき:「本気度合いだと思います」
森林:「今日は、したいことがあるときはきちんと伝えてね」
みづき:「そうですね…(照)」
森林:「銀次さんに甘えて。もしも、痛みも欲しくなったなら、そう伝えて」
みづき:「はい…」
森林:「思いっきりセックスして、気持ちよくなってね」
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きみの手と俺の手で、セックスをしよう
その後、ロケバスは、関東近郊にある貸別荘に到着。早速、みづきさんと銀次は、リビングでコミュニケーションを取り始める。みづきさんは三人掛けのロングソファ、銀次はひとり掛けソファに腰掛けて、L字型に向き合った。
銀次:「俺と出会ったあの現場は、どんな印象だった?」
みづき:「なんか…、あの現場だけ細部まで鮮明に覚えてるんです。最初は正直、ビンタされるのが怖かったんですが、それがだんだん快感に変わっていって。自分がその世界観にのめり込んでいくのを感じました」
銀次:「いまはSMのパートナーがいるんだよね?」
みづき:「はい、でもいまはお互いに相手への愛情がない気がして。単なるプレイになっている気がします…」
銀次:「SMプレイはしてるんだ?」
みづき:「しています。ただ、見つめ合うとか肌が触れ合うことがなくなりました」
セックス観をはじめ、親との関係性やAV女優時代のことなど、銀次はみづきさんの心の内を知ろうと、さまざまな話を聞き出していく。
みづき:「AV女優に応募したときは、自分のなかで急に反抗心が湧いて。ずっと母親に縛られてきて、いい子でいるのに疲れたんです。母にAV女優になることを伝えたら、即座に『もう帰ってこなくていい』と…」
みづき:「SMについては、身体にできた痣が消えていくのが寂しいって思います。でも、殴られたことを思い出して濡れるかというと、そんなことはなくて。それよりは、男性とじっくりと向き合ってセックスをすることを想像する方が興奮しますね。ちょうどそんなことを考えていたら、森林さんが『目と目を見つめ合えばわかる』と発信されているのを見つけて、これは何か転機にできるかもしれない、と」
銀次:「痛みを伴わないセックスをすることもあるの?」
みづき:「それを…したいんです」
銀次:「は〜ん…」
みづき:「痛みがないと満足し合えないんじゃなくて、究極を言えば、隣にいるだけで満たされるみたいな…。本当に、それだけでもいいくらい」
銀次:「そうするとさ、もう痛みとかSMとかは卒業なんじゃない?」
みづき:「あ…、卒業…」
銀次:「痛いことは要らないじゃん。痛いことの要らない自分になりたいんじゃないのかなって、チラッと思ったんだけど」
みづき:「ふふ、そうですね…。卒業して、次のステップに行きたい…」
終始にこやかに語っていたみづきさんが、ふと言葉に詰まる。両手で顔を覆い隠すが、泣いているようだ。銀次と話をするなかで、少しずつ頭の中が整理されてきたようだ。
銀次:「ちょっと引っかかるんでしょ。私、痛いことしないとダメなのかなって」
みづき:「はい…。でも、卒業したい…です!」
みづきさんは、決意するようにそう言い切った。
銀次は、自分の座っていた場所から移動してみづきさんの隣りに腰掛ける。両手で優しく彼女の両頬を挟み、さらにその手を彼女の頭の後ろと手の上に片方ずつ添えると「こっちを見てごらん」と囁いた。
はじめは照れていたみづきさんも、身じろぎもせず見つめてくる銀次に応えようと、必死に見つめ返そうとする。最初は上目遣いで恐る恐る…。少しずつ、目線の高さを合わせるように顔を持ち上げていく。その目には、うっすらと涙が光っているように見えた。
銀次は、みづきさんの目をじっと覗き込み、彼女が呼吸を整えるのを待ってから、「ちょっと貸して」とそっと右手を取った。何を思ったのか、そのまま、まっすぐに伸ばした自分の人差し指と中指を彼女に握らせる。
銀次「ここ(みづきさんの手)がおまんこ、俺の手がちんこ。いま、俺のモノが入ってる。ちょっと握ってみて」
銀次が、みづきさんの丸めた手にゆっくりと自分の指を挿入すると、予想外にも、彼女は快感を得たときのように吐息を漏らした。その間、ふたりはじっと見つめ合っている。
みづき:「あ…、あっ…」徐々に息が荒くなっていく。
銀次:「俺、だんだん硬くなってきてるよ…。わかる…?」
みづきさんは銀次を見つめたまま静かに頷き、いっそう気持ちよさそうに眉根を寄せる。両脚がモジモジと焦れるように動き始め、両太腿の間に自分のもう片方の手をぎゅっと挟み込んだ。
銀次:「こんなに硬くなってるよ…」
そう言いながら、銀次は自分の指をぐりぐりと回転させる。みづきさんは、さらに深い快感を感じている様子で上半身をのけぞらせるが、銀次は彼女の肩をしっかりと抱き寄せて「俺の目を見て」と捉えて離さない。彼女はますます頬を紅潮させ、ソファから投げ出していた足を自分のほうに折り曲げながら、「イク…イクイクイク…」と何度となくつぶやいた。銀次はさらに強く肩を抱き、唇が触れる距離でみづきさんの目を見つめ続ける。彼女の手のひらに挿入した指をピストンのように動かしながら、「イこう…」とアイコンタクトを取った。
銀次:「気持ちいい?」
みづき:「ん…」
銀次:「俺もすごく気持ちいいよ」
みづき:「気持ちいい」
銀次:「ずっと入っているよ」
見つめ合い、指の挿入を続けながら、吐息まじりの会話が続く。そしてみづきさんは、「イ……く…」と身体を硬直させ、ついに最初のオーガズムに達したように見えた。
その後も彼女は、銀次と目と目を合わせたまま、性器に見立てた指をしっかりと握りしめ、繰り返し押し寄せてくる強い快感の波間を漂っているようだった。
ようやくみづきさんがひと息つくと、銀次は彼女の乱れた髪を優しく整え、頬を撫でた。彼女は、何かつかえが取れたかのように、はらはらと涙をこぼす。
そこへ、影から一部始終を見守っていた森林が、みづきさんにそっと語りかけた。
森林:「みづきちゃん、これは痛いことするのと違った?」
みづき:「違いました…」
森林:「どう違うの? 満たされた感じがする? キスもしてないし裸にさえなっていないけど」
みづきさんは、相変わらず銀次の目を見つめながら「うん…、なんか見つめられてて安心…安心した…」と返した。
森林:「ビンタがなくても満足できた?」
みづき:「はい…」
そして、みづきさんと銀次は、目と目で会話をするようににこりと微笑み合った。
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その後、森林はテラスで休憩する銀次に、先ほどのセックスについての疑問をぶつけた。一体何が起きていたのか? どういう意図でみづきさんとコミュニケーションを取り、なぜ手を使った疑似挿入をしようと思ったのか? どんなスタンスで彼女と向き合おうとしたのか? 尋ねたいことは山程あった。
森林:「銀次さん、さっきは何が起きていたんですか?」
銀次:「うん、みづきさんは、最初は痛みやビンタが好きと言ってたじゃない。でも、よくよく聴いてみると、痛いことが好きというより、自分をしっかり見て欲しい、向き合って欲しいという気持ちが強かったんだね」
森林:「じゃあ、これまで痛みが欲しかったのは、なんだったんですかね?」
銀次:「きっかけだろうね。痛みを与えられるときは、相手が自分のことをよく観察くれていると、彼女自身も気づき始めてたんじゃない。そのことを話したとき、彼女の感情が溢れて涙がこぼれた」
森林:「銀次さんに『痛みからの卒業だ』と言われて、彼女は動揺していましたね」
銀次:「うん、それならと思ったのが、いわゆる裸になって挿入するセックスはなくてもいいんじゃないかということ。それで彼女の隣に移動したの。しっかり見つめ合って向き合えば、セックスと同じ満足感を得られるんじゃないかな、と」
森林:「彼女の手に何をしていたんですか?」
銀次:「まず、彼女の丸めた指を『まんこだと思って』って言ってさ。『いま俺のちんぽが入ってるよ。締めてごらん、俺も気持ちいいよ』ってやり取りをしたんだよ。まあそれは、ちょっとしたチャレンジだったね」
森林:「みづきさんは、オーガズムに達していたようでしたけど、あれはどういうオーガズムに近いんですかね?」
銀次:「挿入したときと同じじゃないかな。ひとつになってイッていたと思うよ」
森林:「銀次さんはどうですか? 彼女とセックスした実感がありますか?」
銀次:「射精こそなかったけど、感情としてはセックスした感じだね。だから、ちんこを入れようが入れまいが、大した差はないんじゃないかな」
森林:「そうすると、肉体はあまり意味をなさないですよね?」
銀次:「俺たちはまだ若くて健康だから、実際に挿入のあるセックスをすれば、肉体的な満足感も得られると思うよ。でも、精神的な意味では変わらないかもね」
森林は、新たなテーマを掴んだ気がした。
「肉体を使わないセックスは、純度が高いぶん、いっそう満たされるのだろうか…?」
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目を見ることで感じ合う。“まぐわい”のスローセックス
夕食は、みんなで鍋を囲んだ。多少のお酒も入ったせいか各々くつろいだ雰囲気が漂う。森林は、今度はみづきさんに、先ほど起きていたことを尋ねた。
森林:「みづきちゃん、だいぶ落ち着いたと思うから、さっき何が起きていたのか教えてくれるかな? 肉体に起きた感覚としては、普通のセックスと言葉と手のセックスとで、オーガズムに違いはあった?」
みづき:「ないですね。本当に普通にしている感覚でした」
森林:「じゃあ、挿入されている感覚があったの?」
みづき:「うんうん」
森林:「相手がきちんと向き合ってくれているなら、痛みの有無はどちらがいい?」
みづき:「向き合ってくれているなら、なしの方がいいかな…」
森林:「じゃあ、向き合ってもらうための痛みだったのかな?」
みづき:「…かもしれませんね」
森林:「今後は、どういうセックスをしていきたいと思う?」
みづき:「普通に挿入するセックスがしたいかも。特に、スローセックスって何なのかなって思います」
森林:「ただ、入っている感覚だけを感じたい?」
みづき:「いまはそうですね」
森林:「銀次さんは、普段の撮影のときも、挿れたあとしばらく止まってますもんね。止まっているときって、相手の何かが伝わってきてるんですか?」
銀次:「そうだね。なんだろう…、つながっている満足感はあるよね。もっと相手の人に気持ちよくなって欲しいという気持ちが湧いてきてから動き出す感じかな」
みづき:「私は、入ってきたのを感じると腟が動き出すことがあるんです。それを感じている瞬間がいちばん好きかもしれない。ただ、そういう瞬間はなかなかないのですが。だから、男性がイッた後もすぐに抜かないでくれると、腟が動いているのを感じられて『ああ幸せだな』って。そういうことをしみじみと感じたいです」
森林:「その味わっているときは、意識は性器にいってるの?」
みづき:「完璧に性器にきてますね」
森林:「そのときに見つめ合っていたらどうなると思う?」
みづき:「…やばいと思う。やばいしか言えないです」
銀次は、みづきさんの顔を覗き込みながら「うん」と微笑む。ここへ来て、ふたりの間には、特別なリレーションシップが生まれているようだ。
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夕食後は、再びリビングへ。みづきさんと銀次は、今度は見つめ合いのあるスローセックスに挑戦するという。
ふたりは、3人掛けソファに並んで腰掛けた。向かって右側にみづきさん、左側に銀次。20cmほどの間隔を開け、身体を斜めにして向かい合う。最初は、近距離から注がれる銀次のまっすぐな視線に気圧されてしまうみづきさんだったが、銀次の真剣さに引っ張られるように、必死に見つめ返した。
見つめ合いは10分以上続いただろうか。みづきさんの膝が、ゆらゆらと揺れ始める。それに気づいた銀次は、そろりと左手を伸ばし、指先でそっと膝に触れる。その左手は、太腿から脇腹、腕へとフェザータッチで上っていく。もちろん、ふたりはこの間も見つめ合ったままだ。みづきさんは、徐々に吐息を漏らし始めた。両脚は焦れるように左右を擦り合わせ、足の指が突っ張るように床を押す。
銀次は頃合いを見はからって、みづきさんの両腕を自分の胸に運んだ。彼女はそのまま少しずつ銀次の胸に倒れ込んでいく。ふたりはその間、一瞬たりとも視線を外すことなく、一連の動作はまるでスローモーションのようにゆっくりと、丁寧に、お互いのタイミングを探り合うように行われていった。ふたりの距離が、少しずつ近づいていく。すると銀次は、みづきさんにこう囁いた。
銀次:「感情をぶつけるといいよ。したいことをすればいい」
この言葉は大きな安堵となって、彼女を包み込んだようだった。みづきさんはこくんと頷くとさらに銀次ににじり寄り、吸い寄せられるように顔を近づけ、キスをした。銀次は彼女を抱き寄せ、いよいよその全身を引き受ける。
それからふたりは服を脱ぎ、ソファから立ち上がると、隙間なくしっかりと抱き合った。お互いの背中に手を回し、腰を擦りつけ合って感じ合う。味わうように首元に顔をうずめては、また顔を上げ、視線を絡ませて貪るようにキスをする。お互いの身体が解けないように強く抱き締め合ったふたりは、呼吸を合わせてうごめく、ひとつの命のように見えた。
みづきさんは喘ぎながら、何度も銀次にしがみつき、オーガズムを迎えているよう。
それから銀次はみずから下着を下ろし、みづきさんの手を硬くなった場所へ誘導する。ふたりは額を擦りつけ合いながら、目を見つめて触り合い、オーラルプレイに夢中になり、そして銀次はみづきさんをソファに仰向けに寝かせて、正常位でゆっくりと挿入を行った。
銀次は途中まで挿れると腟が馴染むのを待ち、そこからさらに奥まで慎重に進んだ。ゆっくりと確かめるように腰を動かしていく。みづきさんは、銀次の目を見つめながら、まるでうわごとのように「気持ちいい…」とつぶやいている。彼女の唇が「気持ちいい」「ダメ」「イク」と形を変えていくたび、銀次も表情を駆使して同じ感情を返していった。
みづきさんは休む間もなく連続でイキ続けているようだ。そしてついに、銀次も射精の瞬間を迎える。銀次に「まだ抜かないで」と訴えるみづきさん。念願だった腟の余韻の感覚までを、貪欲に味わっていた。
銀次の首に手を回しながら、まだ荒い呼吸を整えるみづきさんに、森林がそっと尋ねる。
森林:「みづきちゃん…、どうだった?」
みづき:「ああもう…すっごい幸せ…」
森林:「さっきの言葉だけのセックスと今回の肉体でつながるセックスは、何か違う?」
みづき:「ん…わからない…、どっちも気持ちよかった。けど…、いまの方がつながってる感じがして幸せ…」
みづきさんは銀次に抱きついたまま、穏やかに微笑みながら、もう一度「幸せすぎて…」と涙を流した。
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最後に森林は、再度、銀次のくつろぐベッドルームへ。今日起きたことの話を聞きたいと思った。
森林:「銀次さんのなかでは、言葉と手のセックスと肉体を使ったセックスには、どんな違いがありましたか?」
銀次:「ほとんど違いはないよ。唯一の差は、やっぱり実際に肌を合わせた方が、ぬくもりを感じるということかな」
森林:「うん〜、そうですね」
銀次:「お互い裸になってつながった方が、やっぱり身体全体からぬくもりを感じられるよね。でも、そんなに大きな差はないんじゃないかな。森くんは、以前、俺に聴いてきたことがあったよね。『年配の男性が、勃起できないせいで妻とセックスできない。それでも妻を満たせる方法はないか?』って。勃起と挿入が成り立たなくても、何か人間としてつながっている幸福感を感じることはできるんじゃないかな。そんな可能性を感じたね」
森林:「僕もその可能性は感じました。と同時に、それは、本当に勃起できない人や腟が使えない人が抱えている不足感をカバーできるのか、疑問が残ります。本当は挿れて欲しいんじゃないか、挿れたいんじゃないかというコンプレックスのようなものを、手や言葉のセックスで解消できますかね?」
銀次:「うーん、あれは“言葉のセックス”ではないんだよね。“感情でつながるセックス”。俺みたいに言葉がうまくない人は、そうじゃないかと思うんだ」
森林:「感情だけでつながるって、言葉もないなら何を手がかりにするんですか?」
銀次:「それこそ、代々木さんの言葉じゃないけど、社会性を捨てることじゃないかな」
森林:「社会性を捨てた後に、残るのが感情ということですか?」
銀次:「うん、まずは人対人として相手と向き合う。それで、こっちが曝け出したものをああやって受け入れてくれる人もいるってことだね。『何それ?』となってしまう人は、そもそもそういうことを求めてないんだと思うよ」
森林:「男優をやっていると、(ひとつのセックスで通じ合った感情を)忘れることも覚えていくじゃないですか。今日みたいなセックスだったとしても、銀次さんは忘れてしまうものですか?」
銀次:「うん、そのためにこういうものがあるんだよ(笑)」
銀次は、ウイスキーのグラスを持ち上げてみせる。
森林:「幸せだった体験や感情を忘れていく必要ってあるんですかね?」
銀次:「悲しいかな、これはこの仕事をやってる限りは必要なんじゃないかな。ある種の快楽の体験としては残るけど、具体的にどうこうということは消さないと翌日も新たなものに向き合えないじゃない? 俺たちはそれを仕事にしてるからね」
森林:「じゃあ、一般の人だったら、忘れる必要はないですか?」
銀次:「ないない、そりゃないよ、もちろん! つながった人とそれから仲よくなっていけばいいんだもん。俺たちは、それはそれとしてニュートラルになって、新たな明日に行かないといけないじゃん」
森林:「今日は一日ありがとうございました」
銀次:「お疲れさま。さあ飲むよ〜、これから!」
銀次は、再度、手元のグラスを掲げてニカっと笑った。
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結局、今回の撮影で、痛みを伴うセックスが行われることは一度もなかった。代わりに、みづきさんの感度をもっとも押し上げたのは、“徹底的に見つめ合う”その行為だったようだ。
“セックスで見つめ合うこと”=「まぐわい(目合い)」は、代々木が相手とつながるために欠かせない要素として大切にしてきたキーワード。セックスにおける痛みの意味を考察しようとスタートした撮影は、奇しくも、代々木から教わったことを再確認する結果となった。
さらに撮影後、みづきさんから森林のもとに、こんなメールが届いたという。
「あれ以来、セックスで痛みが欲しいとは思わなくなりました。私のプレイスタイルが変わるかもしれません。これからは、自分の気持ちに蓋をせず、彼に素直に伝えていきたいと思います」
つながることでしか、わからないことがある。みづきさんは、今回、それを見つけたのだろう。