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代々木忠監督から教わったこと 〜平本一穂編〜

僕が大変お世話になった代々木忠監督が、昨年の8月に監督業引退を週刊ポストにて発表されました。
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これを受けて、2022年1月29日に、
「代々木忠監督からのラストメッセージ〜性の深淵を覗いたら人生が変わった〜」
というタイトルのイベントが開催されます。

これは、代々木さんが人前に出て話される最後のイベントになる可能性が高いです。と言いますのも、代々木さんは、引退発表直後はイベントをすることを望んでいませんでした。

ですが、代々木さんの引退を誌面のみで終わらすのではなく、代々木さんの声で、言葉で聞きたいと多くの方が望んでいると石岡正人監督(映画「YOYOCYU sexと代々木忠の世界」監督)が説得してくれ、代々木さんの気持ちを動かしてくれました。

僕は、そのイベントの企画、運営を任され、どのようにするのがいいのか思案しました。すぐにぱっと思い浮かんだのは、代々木さんは40年以上にわたる監督業を通し多くの作品を残しているので、それを振り返るという内容です。しかしそれは、各個人がネットなどで見てくれればいいのかなと考えました。

それより、代々木さんが監督としてだけではなく、1人の人間としてどんな方なのか、僕にとって、AV業界にとって、周囲の者にとってどんな存在だったのかを伝えたいと強く思いました。

このイベントでは、代々木さんの作品にレギュラーで呼ばれていた男優たちが、数十年の付き合いを通してどんなことを教わり学んだのかを伝えていきます。

おそらく本質的には同じことを感じていますが、各人の表現になるので、伝わり方も変わってくると思います。多角的な視点や様々な表現によって、より多くの方に代々木さんが僕たちに、男優たちに伝えてくれたことが広まり、深く理解されたら本望です。

イベント後半では、代々木さんに登場してもらいます。そこでは、引退に関する思いなどを聞かせていただきます。

その会場に参加できるチケットは既に完売しているのですが、オンラインで参加するチケットはまだ販売しています。

▶︎チケット販売先
https://twitcasting.tv/c:houjinyoshimura/shopcart/128888

※本イベントは終了しました。

 

参加男優が6人いるので、イベント内で話し切れないだろうという予想が立ち、開催に先立って各男優にインタビューをしました。その内容を順次発表していきます。

トップバッターは、代々木さんの作品に一番多く出た平本一穂さんです。平本さんが代々木さんと出会い、性の深淵をのぞき、人生がどう変わったのかお読みください。

なおインタビューは、僕とライターの河合桃子さんさんの2人で行いました。以下の文章は河合さんにベースを作っていただき、そこに僕が加筆したものです。

 

◆平本一穂◆
面接軍団の通称/アニキ、平本さん

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●代々木さんとの出会い「自分、レイプはできませんから!」

 現在はAVメーカーの代表取締役だが、20代から40代まで男優として活動していた平本。とっぽさと人懐っこさ、面倒見の良さを併せ持つ。セックスではとくに激しいプレイをしたり指使いで派手に見せたりはしないが、相手の懐に入るのが上手で代々木監督からも「平本は母性本能をくすぐるんだよ」と評されている。

代々木組から出演依頼が入ったのは男優歴10年に差し掛かった頃だという。

「代々木監督は有名だったので知ってましたよ。けど『チャネリング』とかもやってたから、“なんか胡散臭いな。宗教じみてる”という印象でした(笑)。
だから正直、俺にはあまり関係ない世界で、まさかお呼びがかかるとは思ってなかった。それに当時からすでに大巨匠で、そんな代々木さんが一体俺のどこを気にかけて呼んでくれているのか…と、内心かなりビビりながら現場に行きました」

(※チャネリングとは、肉体の接触や言葉を介さずに二者以上が通じ合う現象。個人がそれぞれ個別の周波数を持っていて、その周波数が一致すると感覚や感情が共有されると考える。双子の片方が怪我をすると、怪我していないもう片方も同じところが痛くなる現象が典型例。代々木は、複数の女優を使い、チャネリングの可能性を追求する実験的な作品を撮っている時期があった。)

すでに男優歴10年だった平本も、代々木の現場では初っ端からかなり戸惑ったという。

「まず台本がないことに驚いた。どんな現場だって紙1枚くらいはあろうものを、代々木さんとこにはそれが存在しない。しかも何の説明も指示もなく、いきなり“あの女の子たちレイプして”と言われたんですよ。もう“は?”って感じですよ。それまで俺はレイプものの現場は断ってたしレイプものには抵抗があって好きじゃなかった。俺は甘くて優しいプレイが得意だって思ってたから。そうは言っても今回はもう受けてしまった仕事だし、やるしかないって思って、とりあえずぶっきらぼうにやってみたんですよ」

当時のAVのレイプものはコンプラ的にも緩かったからかなりガチめな撮影が多かったという。とくに女優はAVに出ることは同意していても、レイプものだとは知らずに現場に来ることもあったのだとか。代々木の現場では、レイプ願望があると話す女優に詳しいことを知らせない状態で、まさかというタイミングや相手に襲わせることをしていた。そうすることで、撮影現場という虚構の世界であってもリアリティが生まれると考えるからだ。

その時、男優に女優に関する情報が事前に伝えられないこともあり、平本の場合もそのケースの1つであった。しかしそのため、平本は気が引けていたというのだ。

「レイプものの現場では殴ったりはないものの、女優さんを本気で押さえつけたり攻撃的な言葉を発したりすることもあった。俺はそれはできない。だから代々木組の現場では、どこか仮面を取り繕ったように“レイプってこんな感じだろ”ってふうにやってみたんです。

そうしたら代々木さんが“バカヤロウ! お前、なにやってるんだよ! レイプしろって言ったろ! なに格好つけてんだ!”って怒ったんです。俺もムッとしちゃいまして(笑)。もう仮に嫌われて次から仕事が頼まれなくなってもいいやって腹を括ってこう言いました。“自分、レイプはできませんから!”と。それに対し代々木さんが何て返事したかは忘れちゃいました。けど次はもうないなって思ってたのに…その1ヶ月後にまた代々木組に呼んでいただいたんです」

代々木は男優に完成された仕事を求めない。どこか情けなく滑稽で人間くさいところを隠さずに見せることを求める。それは、男優としてキャリアを積み、自身のスタイルが出来上がった者ほど難しい。一般社会において、成功した男性ほど本音を漏らしたり弱みを見せられなくなっているのと同じではないだろうか。

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名だたるAV監督の現場を経験してきた平本をして、代々木の現場では“得るもの”が多かったという。

「代々木さんの現場で初めて本音を出せたし、良い意味で素直になることの大事さを知った。だって俺が素直な気持ちを訴えかけたら代々木さんは俺を受け入れてくれたから。代々木さんを、その場を信頼することができた。だから明け渡すことができて、女優さんも信頼してくれたんだと思う」

それから、代々木には他のAV監督にはない、代々木ならではの“懐の広さ”があったという。

「これは俺以外の面接軍団全員も同じこと言うと思うけど、代々木さんは絶対に俺達を見捨てない。例えばAVの現場って、女優が不機嫌でどうにも回らなかったりとか、その他諸々のアクシデントが生じて監督がお手上げって状態になることがある。どうにもならないから男優に丸投げみたいになる現場も当時はあったんです。でも、代々木さんだけは俺達に丸投げしない。女優にズバッとダメ出ししたりして挽回しようとしてくれた。それは本気で女優と向き合っていたから。

逆に、俺が女の子をサクッとやれないでおどおどしてるところにチョコボール向井が現れて女の子とやり始めると“女かっさらわれてる(笑)”ってイジってくれて俺のキャラを確立させてくれた」

●思い出の現場「桜貝、ぱっくり!(笑)」

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  代々木の現場に関わってから、男優という仕事の姿勢も変わったという。

「それまで男優の仕事と言えば“見せること”“イカせること”“形をつくること”。それが男優の仕事と信じて疑わなかった。けど、代々木さんの求めるものは「人対人、ちゃん相手に向き合え」ということ。正常位の次はバックといったフォーメーションプレイにこだわらず、素直に女優さんに全身全霊で向き合うことを教えられたんです。だからもう「この女優さんとはヤレないなあ」って思ったら、それも素直に出せる現場でもあった」

なかでも今でも印象に残っている現場があったという。

「それは俺と片山で、可愛い顔して淫語をバシバシ言っちゃうような女優さんとヤるはずの作品でした。女優さんは俺達の目の前で“桜貝ぱっくり!”とか言いながらアソコを見せてくれるんだけど、全然エロくない。だって感情が入っていない言葉だから響かないんです。でもなんとか俺達を焚き付けようと焦って、女優さんはエロいことを言うんだけど、言えば言うほど俺も片山もシラケちゃう。これは一体どう着地するんだ、って感じでした」

普通の監督ならリアリティにこだわることを諦めて演出し、形を見せるAVでお茶を濁すところだが、代々木は慌てることなく女優と向き合い続けることを止めなかったという。

「代々木さんは女優に“もっと誘惑して”って言うんだけど、女優さんが焦ってやらしいこと言いながらフェラしたりと頑張れば頑張るほどどうにもならなくて。しかも俺ら最後にはストレートに“君とはできないや”って言っちゃう始末で。それで代々木さんの“無理だな。終わりにしよう”って言葉で終了。最後まで1回も絡まないっていうAV史上、前代未聞と言っても過言ではない作品でした。あっ、タイトル思い出しました、「桜貝満開姫」でした(笑)!」

●俺と代々木さんの共通点「幼い頃に母を亡くしている境遇に親近感を感じてた」

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  実は代々木と平本には他の男優にはない共通点がある。それは代々木は3歳で、平本は小学5年生で母親を亡くしている。

「なんと言っても母の死は突然だったからね。親父に「母ちゃんな、日本酒ばっか飲んで肝臓悪くしたんだ」って言われて驚いた。だって母親にお使いでよく「お父さんが飲むから買ってこい」って日本酒を買いに行かされてたから、てっきり親父が飲んでたかと思ってたのにだまされてたって。だから俺は意地になって母親が入院してもお見舞いに行かなかったんです。
そしたら、そのうち近所の人に「お母さんのお見舞いに行こう」って言われて行ったら、お母さんが血を吐いてて、その30分後くらいに亡くなった。最後の最後には会えた。自慢じゃないけど母親は可愛い人だった。俺を18歳くらいで産んでくれたからクラスで一番若かったし本当に可愛い綺麗なママだった」

それからは父親と弟と3人で暮らし、その後も男子校に進学、卒業後は料理人になるなど長らく男社会の中で生きてきたという平本。それゆえに少年時代から女性そのものへの強い憧れがあったという。

「母が亡くなってからは、母に優しくできなかったことにものすごく後悔した。それと同時に早い段階で女性には優しくしないといけないって気持ちが芽生えた。とにかく俺にとって女性は憧れで憧れでしょうがなくて、神聖なものだった。当然、女性や、その女性が持つアソコは大事に優しくしなきゃいけないって思ってたから、いくら男優になったからってレイプはできないって思いがあった。代々木さんも早くにお母さんを亡くしてて、その話を直接聞いたことはないけど、そういう似た境遇に、どこかで親近感を感じてた」

代々木から母性本能をくすぐると言われる平本は、伝えきれなかった母親への愛を抱えたままがゆえに女性の懐に入るのが上手いのか。一方、母親を早くに亡くした代々木の作品には、母性を強く感じさせる女性が多く登場する。代々木は著書で、本能が成熟し感情の意識レベルが上がり、それらが合わさったものが母性と定義している。

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 女には優しくあれ、と心がけていた平本だったが、代々木と関わったことで女性との向き合い方も変わったという。

「代々木作品に出るようになって、とくに女性に対面する時は自分から心を開くことを心がけるようになった。これは自分がAVメーカーで監督として立ち回るようになってからもその経験が活かされた。“君と全身全霊で向き合いたい”って女優に言って場を和ませたり、女優と素直に向き合うことを心がけるようになったり。自分が心を開くと、相手も信頼してくれているのが伝わるし、感じる。自分が心を開かないと、相手も構えてしまう。それまでも腹の底から向き合ったつもりではいたけど…代々木さんの現場で、それが“確信”に変わりましたね」

優しさとはなにかと平本に尋ねると、「相手の立場に立って考えるってこと、気持ちを汲むってこと」と答えてから、「代々木さんは男にも女にも優しい人」と付け加えた。

 ●平本のアニキ推薦! 後世に伝えたい代々木作品

「ザ・面接!」シリーズは人間模様が面白いから、ドキュメンタリーとしても楽しめます。AV初心者でも楽しめる作品だと自信を持って言えますね。

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  シリーズから敢えて一本挙げるなら、自分の宣伝も兼ねちゃいますけど…自分が公式に面接軍団を卒業した「ザ・面接 VOL.113 アニキ引退 赤貝 熟れ貝 吸いつき祭り」、笑えますよ。

ネタバレすると、最後に平本が共演しているのが女優ではない(笑)! これは面接シリーズを知っている人なら知っている話。こういう振り幅もあるんだなーって感じられる、代々木監督作品のひとつですね。

 ●代々木忠監督へ、平本よりメッセージ

 やっぱり、いつまでも健康でいてほしい。でも一方で引退をすることで代々木さんの中でも最大限にパワーを注いでいた撮影をするっていう行為がなくなるということは、健康に何か影響は出ないものかと心配な面もある。だって撮影ってパワーがいるし、それのおかげで元気でいられたところもあると思うから…。

俺の父親はもうすでに亡くなったけど、代々木さんは父親以上に最高に尊敬できる方ですね。でもだからって父親像として見てるわけじゃない。先輩であり仲間であり…人生において、俺の中で一番の人です。俺も大きくなったら、ああいう大人になりたいです。

とりあえず撮影で使ってきたパワーは、これからの余生をゆっくり過ごすことに使っていただきたいです。150歳まで生きてほしい!

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