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女性用風俗店オーナーに聞く「“女性の性欲”って何ですか?」(前編)

 

【スペシャルインタビュー:「SPA White」あす香さん×森林原人】

女性用風俗店オーナーに聞く「“女性の性欲”って何ですか?」(前編)

 

 

「性愛の本質」を探求し続ける森林が、最近注目しているという女性用風俗。なぜなら、そこには、近年世の中に認知されつつある“女性の性欲”の正体があるのではないかと考えているから。

 

そこで今回は、女性用風俗店「スパホワイト」オーナー兼セラピストのあす香さんにインタビュー。女性ならではの視点もさることながら、「粘膜同士の接触がない」という同店のコンセプトは、AV男優としてキャリアを重ねてきた森林にとって、非常に興味深いよう。

性器へのタッチにこだわらず、快感を起こす方法とは? また、あす香さんが女性オーナーとして女風店を立ち上げることになったきっかけやご自身の性体験の歴史までを率直にお伺いした。

 

2回連載となる前編は、業界内でも独自のコンセプトを持つスパホワイトの魅力と、あす香さんが実感する女風ユーザーのニーズについてお届けします。

 

 

女性の不安感や不快感を取り除いた結果が「粘膜同士の接触なし」

 

森林 あす香さん、はじめまして。今日はありがとうございます。

 

早速ですが、僕は「性の本質」や「性愛がもたらす幸福感」を追求していきたいと考えています。視野を広げるためにも、業界を超えて性にまつわる活動をされている方々に積極的にお話を伺っていきたいのですが、なかでも、いま最も興味があるのが女風業界。

 

フェムテック市場が急成長し、女性の性欲の存在が当たり前のものとして世の中に認知されていくなか、おそらく女風のニーズも高まっていますよね。ただ、ひとくちに“性欲”と言っても、それは男たちが「女もエロいんだな」と思い描くようなものと同じなのかどうか疑問を抱いています。

 

僕は、最近よく耳にする「女性性」という言葉にどうも違和感を覚えるんです。「女性には女性の喜びがある」という考え方は、女性を解放しているようで、実は女性という性に縛りつけているのではないか? “女性性”というものが本当にあるならば、女性ならではの喜びとは何なのでしょうか?

 

そんなことを思うなか、女風店のなかでも「粘膜同士の接触がない」お店があると聞いて驚きました。キスもクンニも性器まわりへのタッチもない状態で、一体、どんな満足感をもたらすことができるんでしょう? 今日は、スパホワイトさんが女性から求められていることやそのコンセプトにたどり着いた経緯について、お伺いできればと思います。

 

 

 

あす香 よろしくお願いします。なんでもお話しさせていただきます(笑)。

 

森林 ありがとうございます。ではまず始めに、お店には、ホワイトとブラックというコースがあるようですが、これはどう違うんですか?

 

あす香 まず、ホワイトコースは、粘膜同士の接触がなく、女性のIラインへのタッチもありません。男性キャストはパンツを脱ぎませんし、基本的にはお客さまにも紙ショーツをはいていただきます。バストは、お客さまによって悩みをお持ちの方もいらっしゃるので、紙ブラをお渡ししています。着用は自由ですが、ご自身で外さない限り、こちらから外すことはありません。

 

森林 ブラックはどうですか?

 

あす香 ブラックは、ホワイトのルールに加えて、指にコンドームや潤滑ゼリーを纏った状態で性器へのタッチや指入れを行います。

 

森林 クンニはなしですか?

 

あす香 はい。当店では、基本的に口も唾液も使いません。

 

森林 なるほど。性風俗店だけど性感染症のリスクを生まないというのが、スパホワイトのルールなんですね。おもちゃを使うことはありますか?

 

あす香 おもちゃはグレーゾーンにしていますが、お店として推奨はしていません。キャストが経験を積んで、きちんとお客さまの心身の状態を見定められる場合に限り、「お客さまが持ち込まれた時は使ってもいいよ」と伝えてあります。

 

森林 へえ〜、厳しいですね。

 

あす香 男性が女性の状況を把握しきれていない状況をつくりたくないんです。そういう意味で、おもちゃは使い方が難しいので。スパホワイトを運営する根底には、とにかく「女性が不快になる状況を避けたい」という思いがあります。粘膜同士の接触をなくして性感染症のリスクをゼロにしたのもそう。パートナーがいらっしゃるお客さまも多いですし、治療ができるとはいえ、性病に罹ったらショックですよね。当店の施術は、「できるだけ女性の不快感をなくそう」「ショックを受けないようにしよう」と考えていった結果、現在のルールに落ち着いた感じですね。

 

 

 

女風利用は、性欲解消よりも「自信を取り戻したい」のかもしれない

 

森林 粘膜接触がなくても、風営法の届出は必要なんですか?

 

あす香 風営法って警察署ごとにかなり見解が異なるらしく、渋谷区の生活安全課では「ハグを商売にする時点でグレーだから、届出はした方がいい」とのことでした。基本的には、“異性間の性的興奮を呼び起こす接触があること”を商売にする場合は、風営法の届出が義務づけられていますが、何をもって“性的接触”とするかは明文化されていないようですね。

 

森林 ホワイトとブラックの利用比率はどのくらいですか?

 

あす香 4:6くらいです。

 

森林 性器まわりの愛撫まで求める女性の方が多いんですね。

 

あす香 そうですね。ただ、当店は男性経験が初めてだったり、これまであまり性的なことに関わってこなかったお客さまも多くいらっしゃいます。ですから、性器まわりのタッチに恐怖心を抱いている方も少なくなくて。

 

森林 異性への怖さがあるということですか?

 

 

あす香 はい。大前提として、男性用と女性用では、お客さまの傾向が異なります。たとえば、予約の仕方ひとつとっても、男性用では大抵当日、早くても3日前くらいに予約が入ることがほとんど。対して女性用の場合は、1週間前、2週間前、1ヶ月以上前が多数派です。ここから読み取れるのは、どうやら多くの女性は、単純な性欲から予約されるのではなさそうだということ。お話を伺っていると、女性としての自信を取り戻したくて利用する方も多い印象があります。もちろん、いろいろなお客さまがいらっしゃるので、単純に「性欲を満たす遊びがしたい」「当日サクッと利用したい」という方もいらして、私自身もどちらかというと当日予約をしたい派なのですが(笑)。

森林 “単純な性欲”って、男性だと排泄欲になるんですが、女性だと何なのでしょう? オーガズム欲? それとも触れ合い欲?

 

あす香 うーん、強いて言うならオーガズム欲でしょうか。女風でも、以前はそんな単純性欲を発散できるお店がありました。「おまんこワールド、楽しもうぜ!」みたいに全面的に“エロ”を打ち出していましたが、昨年末に閉店してしまったんです。

 

森林 それは、ニーズがなかったということ?

 

あす香 もともとは、ニーズはあったと思います。私がお店を始めたのが2018年頃で、それ以前からあった老舗でしたが、2018年頃から女風店が増え始めると、女性の心に寄り添いたいタイプのキャストによるSNS投稿が増えていったんですよね。「心と心で触れ合いたい」という女性のニーズを読み取って、それに合わせていったのかもしれませんが。

 

森林 なるほど。

 

あす香 その老舗はSNSを使っていなかったんです。最近のお客さまは、まずDMでやり取りをして「この人なら身を任せられそう」と確認してから予約される方も多いので、そこで不利になってしまったのかもしれません。

 

森林 予約する前に、DMのやり取りをするんですか?

 

あす香 そういうケースも多いですね。

 

森林 それはキャストが大変そうだなあ。

 

 

あす香 大変だと思いますし、DMはトラブルも多いので、少し改革が必要かなとは考えています。本来は、有料化するなどある程度制限があった方がお互いに健全な距離感ができて、より健康的に楽しめると思います。ただ、多くの風俗経営者は、とりあえず男性を在籍させて、まずは講習費で売り上げを立てようとするんです。だから、大量に採用して在籍数を増やし、「あとは頑張って!」と放置することになる。キャストは暇なので、まずは一生懸命DMをして女性たちと親しくなり、その結果、その先に予約があるという業界の空気感になってしまっているんですよね。

 

森林 女風キャストは顔を公開していない人も多いですよね。それは予約には響かないんですか?

 

あす香 当店でも99%公開していません。もちろん、お顔出しした方が安心感は上がりますが、だからといって、イケメンが顔出しすれば即予約につながるわけでもないんです。予約するかどうかは、SNSから伝わる文章や人柄の方が重視されているようです。

 

森林 え〜、そうなんですか! でも、確かに文章は重要ですね。

 

あす香 はい。文章が重視されているので、私が実際に会うといい子でも、文章が得意でないキャストはお客様によさが伝わりにくいことも。ただ、うちの場合はお客さまと直接お会いできる“交流会”という場を設けているので、やはりそこでは、顔立ちがよくてコミュニケーション上手な子は安心感を感じていただけます。あとは、この業界ではよくツイキャスやラジオ放送が使われるので、そこでは語り上手な子が注目されます。当店では、大体この3つがお客さまの入口になっていますね。

 

森林 顔、文章、お喋り…。性行為のテクニックは、あまり重要じゃないんだ?

 

あす香 そうですね…。私自身が他店で施術を受ける場合を考えても、割と単純な性欲が強いタイプとはいえ、やはり“誰にお願いするか”が大事。プレイ内容どうこうよりも、人柄や体格などその人自身の属性で判断することが多いように思います。

 

森林 これは男性的、且つAV的な考え方ですが、男性器のスペックはどのくらい重要ですか?

 

あす香 あまり関係ないと思います。どちらかというと、スペックよりも“自分に興奮してくれるかどうか”が気になるポイントかなと。女性たちの間で、キャストが勃起していたかどうかが話題になることはあるようですね。

 

森林 そうなんだ。でもそれって、男性が風俗に行って「キミ、濡れてるね」って喜ぶのと一緒だよね?

 

あす香 そうなんです。結局、男も女も相互理解が足りないのだと感じます。女風を利用する女性たちは、何かしら、理由や歴史があるからこそ、わざわざお金を払って風俗にいらっしゃるのだと思います。その時に、キャストが自分に対して勃起しなかったら、「ああ、やっぱり私はダメなのね」と落胆してしまう。そういうこともあるかと思うんですよね。本来は、勃起は朝勃ちからもわかるように生理現象なので、男性の興奮100%=勃起ではないのですが…。

 

 

キスやクンニなしでも快感に導く秘訣は「安心攻め」にあり!

 

森林 ところで、2018年頃から女風店が増え始めたのには、何か理由があるんですか?

 

あす香 松坂桃李さん主演の映画『娼年』がきっかけだったんじゃないかと思います。

 

森林 でも、あの映画を観て憧れますか? セックスが酷評されていましたよね?

 

あす香 それはたぶん、女性たちはあのセックスに憧れたのではなく、それまで我慢してきた「女性として大切にされたい」という願望が外注できるんだということに気づいたのではないでしょうか。

 

森林 なるほど。それで、あす香さんご自身がお店を作ろうと思われたのはどうして?

 

 

あす香 2017年に、大阪のマンションの一室で男の子がマッサージをしてくれる女風の先駆けのようなサービスに出合ったんです。当時の私は、2歳の子どもを抱えてワンオペ育児の真っ只中。フラストレーションが最高潮に達しているなかで施術を受けたんですが、久々に女性扱いしてもらったことにとても心が弾んで。このルンルンした感じはめちゃくちゃいいなと思った次の瞬間には、私は女性の性の悩みを聞ける仕事がしたいし、性感マッサージも教えられるし…、11月だったので「よし!来年はこれをやろう!」と決めていました。ただ、その時の施術は、粘膜同士の接触がなく性器への指入れがあるスタイルだったのですが、マッサージは最高に気持ちよかったのに指入れが残念で、指を入れられた瞬間にテンションが急降下してしまって。

 

森林 “残念”とはどういうことですか? 雑ってこと? ポイントを押さえていないとか?

 

あす香 うーん、そうではなく…。私の場合は、“相手から大切にされている”と感じて心底リラックスできないと、快感が得られないんです。逆に、リラックスしていれば、皮膚感覚だけでオーガズムを得ることもできるのですが。

 

森林 性器への接触もなくオーガズムを得られるんですか?

 

あす香 そうです。だから、それを踏まえて、当店のキャストには「まずは皮膚感覚でお相手を安心させましょう」と指導しています。快感の仕組みというのは、まず安心感を感じていただいて副交感神経優位の状態をつくり、完全にリラックスしていただく。それを確認したら、今度は交感神経を優位にすることで快感の波を引き起こします。これは、男性器を勃起させる場合も同じですよね。

 

森林 そうですね。でもそれなら、皮膚感覚で安心感を増幅させる技術が必要ですよね。そこは、どんなテクニックを用いるんですか?

 

あす香 男性への手コキも女性への指入れも重要なポイントは同じですが、ひとつは、お相手の自律神経の変化を“呼吸”から見ることです。副交感神経が優位になっている目安は、お相手がウトウトするくらいまで「フゥ〜」と脱力できているかどうかですが、その状態をつくるには肌と肌との接地面を大きくすること。できるだけたくさんやさしく触れることです。反対に、交感神経を奏でるためには、“点”を意識したタッチを行っていくのですが。

 

森林 “点”のタッチとは、フェザータッチのこと?

 

あす香 そうです、“快と不快の間”を生み出すタッチです。ですから、性感マッサージの導入としては、まずは手のひら全体とハグとで触れる面積を大きくする。その時の触れ方は、“ゆっくりと、あたりを柔らかく、相手に熱を伝えるように”行います。その後、指入れのあるブラックコースの場合は、指を入れて馴染んできたら、膣の動きや厚みを感じたり、頬の上気具合を観察したりして、呼吸が少し早く交感神経寄りになってきたことを確認。そのタイミングで初めて、指を動かしたりフェザータッチをしたりしていきます。ただ、この時も「大丈夫?」「痛くない?」といったこまめな確認は大事ですね。とにかく、安心してもらうことを念頭に。安心、安心、安心攻めしていくことが肝心なんです。

 

森林 安心攻め…!

 

あす香 ちなみに手コキも同じ要領です。みんなつい速くしごこうとしますが、そうではなく、ローションをつけてゆっくりと手を動かしていくと、そのうち男性器が膨張してきます。そうなったら、徐々に性感帯を探しつつ、呼吸が変化したことがわかってから触り方や速さを変えていく。さらに呼吸が早まった瞬間に「ここかな!」と射精に導く感じですね(笑)。

 

 

森林 へええ…!

 

あす香 いまとなっては全然自慢になりませんが、以前は、自分の思うタイミングでイカせることに達成感を抱いていました(笑)。

 

森林 コントロールできるんだ?!

 

あす香 はい。相手の自律神経をコントロールすることに熱中していた時期があったのですが、そんなことは必要じゃなかったとわかりました。

 

森林 何か考えを変えるきっかけが?

 

あす香 あくまでこちら側の自己満足にすぎないと気づいたからです。それよりも大事なのは、手コキもキャストたちに教えている指入れも同じですが、きちんと相手の目を見つめ、手をつないで、その人をひとりの人間だと認識しながら真摯に向き合うこと。結局、それが満足感につながるいちばん大切なことだからですね。

 

森林 なるほどなあ…、僕にとっても参考になるお話ですね。それでは、この後は、あす香さんご自身が性の仕事に携わるようになるまでの軌跡をお伺いしていきたいと思います。

 

後編につづく・・・・・

 

 

(ゲストプロフィール)

あす香 (あすか)

女性用風俗店「SPA White」のオーナー兼セラピスト。美容専門学校を卒業後、外資系エステサロンに勤務。マッサージはCIDESCOをはじめ5つの国際資格を所持。「女性の悩みを聞きたい」と立ち上げた女性用風俗店「スパホワイト」は、粘膜同士の接触がなくIライン(性器まわり)にも触れない独特の施術が話題に。現在はIラインに触れるブラックコース、女性セラピストのマリンコースも。

https://spa-white.jp

 

取材・文/環子